本質的な課題解決を追求するLITALICOのテクノロジー×サイエンスの活用戦略とは
CTO×CQO対談
今回はCTO(最高技術責任者)を務める市橋さんとCQO(Chief Quality Officer/最高品質責任者)を務める榎本さんの二人にインタビューを実施しました。
異なる専門性に強みを持つ二人から、LITALICOのプロダクトや事業戦略、複雑な社会課題の解決へ向けた技術的・学術的アプローチについてお話しします!
CTO&CQOのプロフィール
執行役員CTO 市橋 佑弥
大手通信会社研究所にてIP電話サービスの開発に従事。その後、通信系ベンチャーで複数のクラウドサービスの新規開発や運用を行う傍ら、NOC、データセンター、カスタマーサポートを統括。教育系ベンチャーでのIT事業エンジニア統括を経て、2017年にLITALICOに入社し、2019年9月より執行役員に就任。その後2020年12月から執行役員CTOとして、新規プロダクト開発や既存プロダクトグロースのほか、社内ITやセキュリティも管掌
執行役員CQO 榎本 大貴
2012年に株式会社LITALICOに新卒入社。LITALICOジュニアで支援員、スーパーバイザー、教材・サービス開発のディレクターを経て、LITALICO研究所を設立。CQO(Chief Quality Officer/最高品質責任者)として、LITALICOの各種サービスの質の保証・改善・進化のための仕組みづくりや研究開発に従事。修士(学際情報学)。2020年10月、執行役員に就任。クオリティマネジメント室長
テクノロジーの力で属人性が高い業務を形式知化し「支援の質」をあげる
ーまず初めに、LITALICOのプロダクトや事業戦略についてお伺いできればと思います。複数サービスを展開するなかで、現在お二人が特に注力しているサービスやプロダクトについて教えてください。
榎本:私はCQO(Chief Quality Officer/最高品質責任者)として、LITALICOが提供する各種サービスの質の保証・改善・進化のための仕組みづくりや研究開発に従事しています。LITALICOは様々なサービス・プロダクトを展開していますが、それらを利用いただくお客さまへ適切に価値提供できているかを常に確認していくことが重要です。後述しますが、その確認のための仕組みを形にする仕事をしています。
私が主に関わっているプロダクトは2つあり、1つ目が福祉施設で支援に携わる従業員向けのアプリケーションです。当社の展開している福祉サービスにおいては、「個別支援計画」と呼ばれる利用者1人ひとりの支援方針や内容の計画を、定期的に策定・更新することが法律で定められています。この計画に基づいて日々の支援が提供されていくので、「個別支援計画」の質は非常に肝心です。そのため従業員向けのアプリケーションでは、「個別支援計画」の質を保証し、さらに向上していくための計画策定をサポートする仕組みを提供しています。熟練した支援員にとっては、そのようなアプリケーションがなくても支援ができている、という実態はあるので、特に新人スタッフの育成や支援の質の「最低基準」を担保することに貢献していると思っています。
2つ目は単体のプロダクトというより複合的なものですが、支援の質を向上するための仕組みづくりです。「支援の質」を測定するための指標を、心理学測定や統計学、マシンラーニングなどの知見を用いて開発しています。教育と同じように、支援においてもどの指標を見たら本当に改善したかを判断するのは難しいです。そのため業務のデジタル化を進め、この仕組みで得られた多数のデータからわかる「ファクト」を支援者にフィードバックし、現場主導で支援の質が高まる状態を目指しています。
市橋:私はCTOとしてプロダクト群全体の戦略を立てつつ、直近は榎本が関わっている支援の質を向上するためのプロジェクトに注力しています。
全社の話からすると、LITALICOでは対外的なプロダクトだけでなく、社内で利用するプロダクトもフルスクラッチで開発し、それを業界全体に普及させていく形で戦略を立てています。また、1つのプロダクトを大きく育てていくだけではなく、多数のプロダクトを開発しているのが特徴です。
当事者の方を取り巻く社会環境には色々なものがあるので、社会の多様なニーズそれぞれに対して最適なソリューションを提供できるよう、C向けには主にWebメディアや福祉施設紹介を、B向けには業務支援系SaaSを展開し、情報発信から業務のデジタル化まで幅広いサービスを提供しています。社会の側に多様な選択肢がもっと増えていけば、当事者の方だけではなく全ての人にとってより生きやすい社会が実現できるのではと考えています。
また多くのプロダクトを開発しても、それらがバラバラでは意味がありません。社会環境やライフステージは繋がっているので、私たちが提供するプロダクト群もLITALICOという1つの包括的なサービスとして提供する必要があると思っています。
そのためには、多様なプロダクトを開発していける組織体制の構築だけでなく、プロダクト間のデータを円滑に連携するなど、それらをきちんと繋いでいくための基盤開発も重要です。こういった様々なプロジェクトを統括しています。
さらに新たな取り組みとして、こういったプロダクトを公立学校の特別支援教育向けにも展開していこうとしており、現在、学校向けの新規プロダクトの開発を行っているところです。
「支援の質を上げる」ために何ができるか?
ー「支援の質を上げる」とはどういうことなのでしょうか?
榎本:そもそも「障害とは」という話からになるのですが、「障害は、個人と個人を取り巻く環境・状況との相互作用の中で起こる、日常生活や社会生活における何らかの制限や制約である」というのが今の社会の捉え方です。少し前までは、「個人が何らかの疾患や変調を有しており、それが機能の欠損や能力の欠如につながっていること」を指していました。重要なポイントは、環境・状況次第で今まで障害だったことが障害ではなくなる、ということです。
その上で、福祉資源をはじめとする社会のリソースを活用しながら、その人の生きづらさや生活の質が安定的に良くなるよう介入することが「支援」です。そしてそのようなあり方の支援が、恒常的に担保されるようになることを、私たちは「支援の質が上がる」としています。
具体的な内容としては、当事者の方が自己肯定感や生活の質が上がったと感じられているか、発達障害がある子の保護者さまがお子さまの支援・サポートに前向きに取り組めているか、就労支援の場合は自分らしい就労や職業選択ができているのか、といった観点でそれぞれのスコアを定点観測しています。改善状況や、よりご本人のニーズが叶う形になったのかをモニタリングすることで、支援の質向上につなげています。
通常業務に加えて、上記のようなデータ観測を全て人手で行うのは非常に大変です。そこで、いかに業務負担をかけずにデータを取得し、改善へ向けた取り組みを行っていくかといった点でエンジニアリングの活用が必要不可欠になってきます。
例えば日々の業務の中で得た支援記録を効果測定にも利用できるようにする、記録を取るときのUI/UXを改善することで負荷を減らす、といった点ですね。ただ記録を取るのではなく、未来の業務やより良い支援につなげていく。まだ道半ばですが、現場で働く支援員の方々のサポートになり、通ってくださっている利用者の方々に価値提供ができるような仕組みにしていきたいと思っています。
市橋:人が人に支援を行うため属人性が高くなりがちで、その方が持っているノウハウが暗黙知化しやすいんですよね。自分のやり方やパターンを言語化して人に伝えることが難しいので、これを形式知化し誰でも再現できるようにしたいと思っています。そうすることで支援経験が浅い方でも高いクオリティで支援できるようになるし、自分自身の学びにもつながる。そういった仕組みを、テクノロジーをうまく活用して実現したいです。
トップラインは経験豊富な支援員の方たちが切り開いていく必要があっても、ボトムラインを揃えて引き上げていくことはテクノロジーで実現できる可能性が高いと思っています。また、テクノロジーやデータをより高いレベルで活用できると、トップラインを引き上げるためのインサイトを得られる可能性もあると感じています。
榎本:定量的なゴールがあるわけではないのですが、2500名ほどいる支援員の方々が、いかに日々支援・サービス提供を積み重ねていけるか、ということ自体をモニタリングしていく必要があると思っています。そのため冒頭にお話しした仕組みづくりが肝心なのです。
LITALICOで得た支援データをプラットフォームを通じて業界全体で共有していく
ーこれら課題解決のために、榎本さんと市橋さんが行っているアプローチをもう少し具体的に教えてください。
榎本:すでに科学的根拠があり確立している支援方法があるので、それらを事業継続性の観点を踏まえてまずはLITALICOの福祉サービスに導入・実装していきます。そのプロセスでは、社内のメンバーにとどまらず、必要に応じて社外のアカデミアの研究者・専門家にも協力を得て、プロジェクトベースで機動力高く推進していきます。
事業継続性の観点が無いと採算が合わずより多くの方々に支援を届けることはできませんが、支援の本質的な部分を削ってしまうとお客さまへ価値提供ができなくなってしまうので、ここのバランスは難しいですね。本質的な部分をずらさずに、簡便化や代替手段を考えながら進めています。
そのようにして、LITALICOでのサービス実装を目指して変更したパッケージや仕組みの効果検証をLITALICOの一部の店舗にて行い、その結果を踏まえてから全店舗へ導入・普及していきます。さらに、自社で運用に乗せられるようになったら、自社以外の福祉事業所へ展開し、業界全体の支援品質の向上に貢献していきたいです。
※LITALICO 2022年3月期 第3四半期決算説明資料より
ー技術的なアプローチとしてはどうですか?
市橋:先ほどお伝えした通り、ただ新しいプロダクトを開発するだけでは意味がなくて、1つの包括的なサービスとしてそれぞれのプロダクトを繋げていかなければいけません。
これは当事者に限ったことではないですが、家庭や学校、職場、病院、習い事、レジャー施設など、居住地域にとどまらず人は様々な場所で過ごしますよね。ライフステージの変化によって過ごす場所も変わってくるでしょう。そして場所や時間が異なるそれぞれの環境で、同じような情報が必要になることもありますし、他の環境での情報が有用なこともあります。
障害福祉領域においては、社会の側がその方のことや必要としていることを正しく理解することが大切なので、ある環境下に限定された情報だけでなく、こういった様々な環境で得られる情報を総合的に扱えるようになることは、業界全体でより良い支援に繋がっていくと考えています。
だからこそデータを各プロダクト間で連携することには大きな意義があり、共通基盤をデザインし作っていくことが重要になります。データ連携自体は他の企業でも珍しくない話だと思いますが、LITALICOは障害福祉業界では最大規模となる約220拠点を自社で運営していて、ライフステージごとや教育・就労など複数の場面へのサービスがあります。そして自社内だけではなく、将来的には異なる施設間を跨いでデータ連携できるような仕組みも構築したい。これらを考慮しながらのプロダクト戦略やアーキテクチャ設計は本当に複雑で難しいことです。でもその分、面白くて挑戦しがいがありますし、実際そこに魅力を感じて入社してくれたメンバーも多くいます。
榎本:サービス利用者のニーズがどんどん多様になっていく中、提供者側の対応力を高めていく必要があります。そういった環境下で質を担保しながら持続可能な支援を行うためには、UXから再考していく必要があると感じています。人ではないとできないこと、システムでも対応できることを切り分けて、業務や考え方そのものを変えていく。テクノロジーをどう活用したら支援の質があがるのか、それを考えるのが難しさでもあり面白さなんだと思います。
※LITALICO 2022年3月期 第3四半期決算説明資料より
多様な人材の総合力でエンジニアリングを価値転換していく
ーLITALICOの強みはどういったところにあるのでしょう?
市橋:弊社は障害福祉領域において最大規模の施設を運営していますが、そこで積み上げられてきた土壌の上に、社内に強いエンジニアリングの組織があり、さらに榎本のような、障害福祉領域を科学し、人による実践とエンジニアリングを繋げられる人間がいる。これらが揃って初めて深いレベルのDXが実践できると感じています。これがLITALICO独自の強みではないでしょうか。
榎本は支援現場への深い理解・経験に加えて、データを基に科学的アプローチができ、データサイエンスに関することも学んで知見があるので、支援者とエンジニアの双方と理解しあえる素地があります。
もちろんエンジニアもドメインを理解することは重要なのですが、お互い専門とすることが違うので難しさも当然あります。そういった時に、エンジニアと支援者の間を繋いでくれ、エンジニアが学ぶための手助けも率先して一緒に取り組んでもらえるのはとてもありがたいです。
榎本:私は「多様性を力に変える」という言葉が好きでして。多様性自体はただそこにあるものですが、それを何かのゴールに向けて力に変えるためには、その場を構成する人たちの目的や動機を同じベクトルに向ける必要があります。LITALICOにおいてはその力量がいろんな場で見られるんです。社長のリーダーシップもあるし、現場で支援してる人の力強さ、それをどう活用するかのエンジニアの力もある、唯一無二の会社だと思います。
ー最後に、読者の方へのメッセージをお願いします!
榎本:LITALICOは多様なメンバーが活躍している企業です。皆さんの関心や得意なこと、挑戦したいこととLITALICOが繋がる所が一つでもあれば嬉しいです。
市橋:個人的なビジョンの1つとして「社会の根本的な課題に立ち向かうエンジニアを世の中に増やしたい」と思っています。ここに向き合っているエンジニアはまだまだ少ないと思うので、一緒にチャレンジしたいと思っていただけた方は、ぜひ面談や選考でお話ししましょう。