トークセッション:LITALICOワークスのDX・AI推進に向けて進める、開発×現場の連携プロジェクト。よりよい支援を届けるために描く未来とは?

自己紹介/プロフィール
― 今日はLITALICOの中でも、特にLITALICOワークスにおけるAI連携やDX推進について、トークセッション形式でお話ができればと思っています。簡単なプロフィールと、今回のDX推進・AI活用においてどのような役割を担われているかについてお聞かせください。
亀田(写真右):プロダクト・DX部門を管掌している亀田です。今回のプロジェクトでは、ワークスのDX推進(ITを使った業務改善/改革)として、業務改善やワークス全体の業務をいかに楽にし、その先でよりよい支援を届けられるか、という目的のもとチームを統括してきました。AIの活用だけでなく、基幹システムやハードウェアの導入など、多角的な観点から現場をサポートする役割を担っています。
榎本(写真左から2番目):AI部門の責任者として、全社のAI活用を推進しています。LITALICO全体でGeminiを主に導入しているため、その効果的な活用方法の提案や、今日も話題にのぼるAI議事録ツール「Notta(ノッタ)」の推進など、AI軸での業務改善に注力してきました。
松田(写真左): 私は入社してからワークスでジョブコーチ(就労支援員)やサービス管理責任者(以下、サビ管)として通算で10年ほど現場を経験してきました。現在は現場経験を活かし、メイン業務としてワークスのDX推進に携わっています。「現場でなかなかシステムを使いこなすのが難しい」と感じているスタッフをどのようにサポートしていくか、日々模索しています。
渡部(写真右から2番目): 私は2017年に入社し、新宿南口センターの新規立ち上げサビ管として約8年間現場を経験しました。その後、エリアサポートで2センター、全体では3センターの運営に携わり、この7月からはHR(人事部)へ異動となりました。DX推進については自身が興味があったこともあり、まず積極的に使用してみた上で現場にどんな影響があるかも考え続けてきました。
現場を深く知らねば、本当に必要なシステムは作れない。
― この1年でワークスにおいてAI活用が劇的に進んだとお聞きしています。それ以前のDX推進の歴史も含めて、お聞かせいただけますか?
亀田: 今までも基幹システムの開発、IT機器周りの支援など業務効率化やサポート周りの取り組みは行っていました。ただAIの活用もですし、改めて現場を自身の目で見に行ったときに、不便さを感じている声はまだまだ多くあり、改めてシステムや業務を一緒に見返すことで、より進化できることはあると感じました。
渡部:以前の病院勤務では1日80枚くらいのカルテを手書きで仕上げる必要があり、毎日大変だったので、それと比べると入社当時はLITALICOはDX化が進んでいるという感覚はあったんですけどね。
松田: 私の前職もすべて手書きの日報だったため、LITALICOに入社して記録業務がデジタル化されたときは、「手書きじゃなくていいんだ!」と感動したことを覚えています。ただ、システムに対して改善のフィードバックをしたくても、誰に、どこに言ったらいいのかもよくわからないのも実情でした。
亀田:DXを進めるチームと、拠点の現場との距離感も多少感じていました。コロナ禍により、数年間拠点に頻繁には行きづらい状況だったのも大きな要因だったと思います。その間に拠点の業務や支援も進化していたため、DX推進チーム自身が現場を深く理解すべきだと考えました。そこでプロジェクトの初期段階で、私自身はもちろんメンバー全員で全国のセンターを回るべきだと判断したんです。
全国各地を回って実際の業務をみてみると、今あるシステムをこう改善すること・こういったシステムを導入することで、大きく改善出来る余地が幾つかあると気づきました。DX推進のメンバーがより業務を深く理解して、自ら考えて作れる状態にすることで、より早く的確に業務改善を行えるのではないか、と考えました。
― 開発側のエンジニアが、より密に現場を知る、という部分がかなり重視されていたのですね。
亀田:エンジニア、デザイナー、情報システム、基幹システムなどを管理するインフラチーム、AI専門の組織などITに関するさまざまな専門職が20名ほど関わってプロジェクトを進めていきました。特にITを使った業務の改善は短期的には拠点の皆さんの負荷が高まる事が多いです。それでも変えることで必ず良くなると感じたものは進めるべきなので、一緒に頑張って頂けるような、信頼関係を築くことをとても大切にしていました。
北海道から沖縄まで一つひとつのセンターを回ったことで、お互いに顔が見える関係になれましたね。そのため現場からも「こういうことに困っています!」と言いやすくなったり、「あなたが言うなら、やってみよう!」と前向きに新規施策を捉えてくれたりすることもあります。
松田:私は大阪エリアで働いているんですが、亀田さんが何度も来てくださるので、大阪の人なのかなって思っていたくらいです(笑)。
やっぱりチャットだけのやりとりとは全然違ったと思います。顔が見えるコミュニケーションがあって、話を聞いてもらえたからこそ、開発側に対して課題や改善の案も伝えやすかったと感じています。
丁寧な支援を目指すがゆえに、面談と記録作成に追われる日々。
― 現場のスタッフにとって、「記録作成」は具体的にどれほどの負担になっていたのでしょうか。
渡部:ワークスでは、非常に丁寧な支援を強みとしていますが、その反面、面談の件数が非常に多いんです。企業訪問も含めると、1日のスケジュールが面談で埋まってしまう日も珍しくありません。1日に6〜7件もの面談が入る中で、自分の勤務時間内にすべての記録を書き切ることは、これまでは正直不可能でした。
結果として、記録作成は残業時間に依存せざるを得ません。特に、対面での支援やコミュニケーションは非常に素晴らしいものを持っているのに、テキストに起こすことや記録作成が苦手なスタッフほど、夜遅くまで苦しんでいる課題もありました。
松田: 加えて、1日に何件も面談を重ねると、朝に話した内容を夕方には正確に思い出せないという人間の限界もあります。
「とりあえず書かなきゃ」と急いで書いた結果、本当に残しておくべき重要な支援の文脈や、他のスタッフと共有すべきポイントが漏れてしまう、という支援の質に関わる問題も起きていました。支援のプロフェッショナルが、事務作業や記録のプレッシャーによって疲弊してしまうのは、非常にもったいないなと感じていました。
NottaとGeminiによる、「面談・記録」業務の劇的な改善
― そのような深い課題に対して、具体的にどのようなAI活用を導入していったのでしょうか。
榎本: 面談の記録と文字起こしをしてくれる「Notta」の導入は、利用者さんと入所前に会話をする「アセスメント面談」で高い効果を発揮しています。現在、日本全国のセンターで月々約1万1000時間もの面談や会議の文字起こしに活用されています。導入の結果、利用者さんとの入所前や日常の面談・支援記録において標準的にかかっていた時間が全体で60%~70%も削減されており、業務効率化に大きく役立っている状況です。
それが、Nottaで音声から自動で文字起こしをすることで、面談中のメモと正確なテキストデータを組み合わせることができ、記録作成の時間が大幅に短縮されました。「面談中に聞き取れなかった、あるいは確認しそびれたこと」を、後から音声でピンポイントに聞き直せる点もいいですよね。
渡部:私自身は、Nottaが導入されてからも紙とペンを用いたメモも実は続けています。利用者さんにも見えるようにして話題の相関性を目で確認し合ったり、時には図を描いて説明するなど、情報保障やコミュニケーションツールとしても使っています。一方で、Nottaに記録を任せることで一層目の前の利用者さんとのやりとりに集中できるようになりました。
榎本:テキストデータ化されているため、後からキーワードで検索できるのも大きいですよね。「あの病院の通院の話、どこだったっけ」と思ったら、検索すれば一瞬でその発言の瞬間に飛ぶことができますよね。
渡部:AIによって要約されすぎてしまうと、利用者さんが選びに選んで伝えてくれた、魂の言葉、のような大切なキーワードがまるっと無くなって文章化されてしまうこともあるんですよね。後からそういった内容は拾い直すこともあります。自分自身のメモと、Nottaの記録を合わせることでより精度があがるイメージですね。
活用方法も人それぞれ。センターで広まる多様なAI活用術
― 生成AIである、Geminiも現場でフル活用されていると聞きました。
榎本: Geminiの活用については、現場で想像以上に多種多様な使い方が自発的に生まれています。支援方針の壁打ち相手になってもらったり、プログラムの構成案を考えてもらったり、企業宛てのメールの下書きを作成したり。
松田:記録を要約するのが苦手だったスタッフが、AIにサポートしてもらったおかげで業務がスムーズに進み、残業が減って健康度が上がっている様子を見ると嬉しくなりますね。
初めは抵抗感のあるスタッフもいたようなのですが、便利になることで時間にも気持ちにも余白が生まれることを実感してもらってからは、みんな積極的に使うようになったと思います。
これまで「記録に追われてこれができない」と諦めていたこと、例えば「もう1件多く企業に電話をかけよう」「もう一歩踏み込んだ外出同行をしよう」といった、本来やりたかった直接的な支援にパワーを割けるようになりました。
渡部:面談中にも目の前の利用者さんのニーズに合わせて、その場で「相談先フローの図」や「指示書」などのフォーマットをAIで作成し、「持って帰って明日から使ってみてね」と渡すことができるようになりました。利用者さんにとって必要なツールを思いついてからアウトプットするまでのスピードが、圧倒的に早くなりました。
― 現場主導でも、AIの活用術が広まっていっているという動きも耳にしました。具体的にはどのような活用例があるのでしょうか。
榎本:Geminiのプロンプト(指示文)の保存・共有機能(Gem機能)も上手く活用されていますよね。全国のセンターに「プロンプト作成が上手なAI職人」のようなスタッフがいて、彼らが作った優秀なプロンプトがセンター内やエリア内で横展開され、普及していくという良いサイクルが生まれています。現場で作られたプロンプトを一度集約したところ、実に40〜50個ものオリジナルプロンプトが集まっていました。
松田:スタッフが課題を解決するために作ったGem機能を、全体に公式化して配っていく動きを今まさにやっています。書類を添削してくれるものとか、行政に提出する書類のたたき台を作ってくれるツールとか…いろいろなアイディアが現場から生まれていっていますね。
スタッフが興味を持って自分で作ってくださったツール例でいうと、利用者さんの「面接練習の相手」をしてくれる面接シミュレーションプロンプトです。「優しく励ましながらフィードバックしてくれる面接官バージョン」や、本番を想定した「ちょっと厳しめにツッコミを入れてくる面接官バージョン」など、スタッフが遊び心と工夫を凝らして作成しています。
非合理のなかに宿る「人間らしさ」と、AIとの共存
― 新たなテクノロジーを現場に導入する際、抵抗感を感じる声や障壁はありましたか?
松田:スタッフの育成や成長の観点から、スタッフの思考力低下を懸念するといった理由で、抵抗感を持つ方もいらっしゃいます。どこまでをAIに任せるのか、は今後も考えていくべきテーマだと思いますね。
渡部: 実際に使ってみて業務が楽になることを一度実感すると、みんな自然と使うようになった感じはありました。一方でAIは、「完璧なシステム」として崇めるのではなく、「たまにうっかり誤変換もするけれど、すごく役に立つ可愛いやつ」くらいの適度なスタンスで、振り回されずに使いこなすことも大切なツールだと思います。
― AIを駆使しながら人間が行っていく支援には、どんな要素が必要なのでしょうか。
榎本: これからの未来、テクノロジーがさらに進化しても、人間が担うべきものとして残り続けるものは4つに集約されると考えています。
- ありきたりではない「非合理」の選択
- 個別の文脈やニーズに応答する「センス」
- AIに出力されるデータの品質を担保・改善する「メンテナンス」
- 「この人が伴走してくれるから頑張れる」という「エンパワーメント(勇気づけ)」
AIにアセスメントの整理やプランニングの選択肢を出してもらうことはできても、最後の最後で人と人とが繋がるエンパワーメントの領域は、代替されないと僕は思っています。
利用者さんのこれまでの人生の蓄積だったり、その利用者さんに関わる支援者側の人生の蓄積だったり、そうしたお互いの人生が交わることそのものが「支援」だと思うので。その場でしか生まれない、その1回きりの交わりみたいなものは、大多数の計算(AIの確率論)には決して及ばないものなのかなと思っています。
亀田:僕も、支援の中でも「エンパワーメント」は最後まで人間がやるべき部分であり続けるんじゃないかなと思ってます。信頼関係を築いた先で目の前の支援者が、一緒に頑張ろう、って言っているからこそ、何かをやり遂げる力が湧いてくる、といったことがあると思いますね。
渡部: AIは非常に優秀ですが、出てくる答えは基本的には「お利口さんな正論」や「確率的に高い平均値」です。でも、対人支援の現場って、教科書通りの正論(ルートA)だけでは絶対にうまくいかない瞬間があるんですよね。「本当はこっちのAの方が合理的だけど、今のこの人には絶対に合わないから、あえて遠回りなルートBを一緒に走ってみよう」というような、一見非合理で泥臭いチャレンジを選択できることが、人間が介在する価値なんじゃないかな、と思います。
松田: 以前、利用者さんから「今後AIが普及してきたら、スタッフの仕事がなくなってしまったりはしないのか?」と問いを投げかけられたことがありました。そこで、「スタッフが面談室から出るので、パソコンを使ってAIと30分面談をするとしたらどうですか?」と冗談交じりに提案してみたんです。そしたら、「さすがにそれは味気ないというか…人間としゃべりたいです!」とおっしゃっていましたね。
これからの展望と「障害をなくす」テクノロジーの活かし方
― 業務効率化のその先に、私たちが目指す支援の未来はどんなものでしょうか。
松田: 私たちの取り組みが福祉業界全体に広まっていけばいいなと思っています。今でもまだ多くの事業所が、山のような書類とアナログな業務に追われ、「本当はもっと利用者さんと向き合いたいのに、時間が足りない」と苦しんでいます。私たちが得た知見や成功事例を外に開いていくことで、業界全体の業務負担を減らし、支援者がやりがいを持って長く働き続けられる社会にしていきたいです。
渡部:私も、福祉業界全体の支援の質が上がるといいなと考えており、直近HRに異動した中で、より良い育成の手がもっと必要だなと感じています。例えば面談技術の高いスタッフの手法をデータ集積し、新人がセルフラーニングできるようになる仕組みなどがあるといいなと思います。自分の面談の記録を読み込んで、率直に課題をフィードバックしてくれたりするのもいいかもしれません。
また、最近は利用者さん自身が上手にAIを活用し、体調管理やセルフコントロールにつなげています。気分の波(躁状態など)は自分では気づきにくいものですが、「最近衝動的な行動が多い」「眠れていない」といった自身のサインを事前にAIにインプットしておくと、AIが「少し躁状態のサインが出ていませんか?」とアラートを出してくれたり。
AIに100%判断を任せるのではなく、補助的な「気づき」のツールとして活用することで早めに対処できるようになった、という事例も見てきたので、支援の場に限らず個人の側でも上手な使い方が広まればいいな、と改めて感じています。
榎本: 僕自身は、AIで障害をなくしていきたいと考えています。本来、障害というのは本人の心身の特性と、それをとりまく社会の環境やテクノロジーとの「相互作用」のなかに生まれるものです。社会や支援者の側、あるいは本人の手元にあるテクノロジーが進化し、一人ひとりに最適化(カスタマイズ)されたサポートが使えるようになれば、これまで「障害」とされていた生きづらさそのものを無くしていくことができると考えています。
AIを人間の良きパートナーとして、支援の引き出しを無限に広げていく。それによって、誰もが「自分はできる」と思える機会を増やし、LITALICOが掲げる理念をテクノロジーの力で加速させていきたいと考えています。
亀田:最近僕が考えているのは、やはり元々のDXやAI活用は「業務削減」が目的ではなく、本来やりたい支援を実現するための手段だということです。これからもっと多くの拠点を出して、より多くの方々に支援を届けられる会社になっていくために「支援者の皆さんが、できるだけ支援に注力できる環境を作る」ことはDX推進の重要な役割と考えています。
ただ、何でもかんでも自動化すればいいわけではないんですよね。例えば「翌月の通所スケジュール作成」などはシステムで自動化できます。しかし、支援者と利用者様が並んで「ここは一緒に頑張ってみよう」と声をかけ合い考える時間こそが重要であり、すべての機械的な自動化が正解ではないと現場で実感しました。
また、業務チャットも同様で、効率重視で「やらない」と無くすのではなく、同僚とのフランクなやり取りが考えを広げ、働くことや支援を考えるやり甲斐にも繋がっていくのはLITALICOらしい文化でもあるのかなと。これからは、どこを自動化してどこを現場に残すか、何が本当に支援に必要なのかを、支援者の皆さんと一緒に考えていきたいです。
― テクノロジーを味方につけることで、LITALICOの目指すビジョンがより強固なものになっていくのを感じますね。貴重なお話をありがとうございました!

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