2026.01.06

イベントレポート:博士号を持つ作業療法士が、LITALICOを選んだ理由。研究知見を「社会実装」するために

ビジネス職

新卒

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本記事では、2027卒の学生向けに開催したLITALICOトークイベントの内容をレポートとしてお届けします。(開催日:2025年11月12日) 「専門性を活かして働きたいが、ビジネススキルも身につけたい」「研究や臨床の現場にいるが、もっと多くの人に支援を届けたい」そんな想いを持つ方にとって、今回の登壇者である野田のキャリアは大きなヒントになるはずです。 作業療法士として臨床現場に立ち、大学院で博士号を取得、研究者としての道を歩んでいた野田。彼はなぜ「LITALICOのプロダクトマネージャー」という全く異なるフィールドを選んだのでしょうか。 アカデミアとビジネス、専門職とジェネラリスト。一見相反する領域を越境してきた彼が見つけた、成長のために必要だった「3つの視点転換」に迫ります。

登壇者紹介

株式会社LITALICO 事業開発部 プロダクトマネージャー 野田

長崎大学にて作業療法士(OT)免許を取得後、同大学院にて修士・博士課程(医学博士)を修了。臨床現場で発達障害児の支援に従事する傍ら、感覚処理に関する研究を行う。 日本学術振興会特別研究員などを経て、2022年より正社員として入社。現在はLITALICO発達特性検査(https://h-navi.jp/assessment/、以下「発達特性検査」)の開発や、LITALICO健診ソフト(https://kenshin.litalico.jp/、以下「健診ソフト」)の立ち上げを牽引する。

臨床・研究の現場で抱いた「もどかしさ」

――知見をソフトウェアで社会実装するために


「研究で得られた正しい知見が、必要としている人に届くまでに時間がかかる」
野田がビジネスの世界、そしてLITALICOへ飛び込んだ原点は、研究者・作業療法士時代に感じた「もどかしさ」にありました。

野田は元々、病院や療育施設で作業療法士として働きながら、大学院で脳波やMRIを用いた神経科学の研究を行っていました。





野田自身、目の前の一人ひとりのお子さまたちと向き合う時間をとても大切にしていました。しかし、自分が直接支援できる人数には限りがあります。また、論文として新しい知見を発表しても、それが現場のスタンダードとして普及するには長い年月を要します。

「もっと広く、まだリソースが届いていない地域や人々にも、質の高い支援を届けられないか」

その答えが「ソフトウェアによる社会実装」。ソフトウェア(IT技術)を活用して、障害があるお子さまたちやそのご家族が抱える課題を解決したり、生活や社会の仕組みを根本的に改善・変革したりすることでした。

野田はLITALICOへの入社理由について、「ビジョンと運、そしてタイミングの合致」と振り返ります。

「『障害のない社会をつくる』というLITALICOのビジョンと、自分がやりたかった『多様な人々を包摂する仕組みづくり』が完全に一致していました。そして何より、会社がプロダクトマネジメント組織を立ち上げるタイミングで、自分の研究知見(専門性)と、会社が作りたいサービス(ニーズ)がマッチしたのです」
自身の専門性を「守る」のではなく、社会課題解決のために「使う」。その手段として選んだのが、LITALICOというフィールドでした。



2つの新規事業の責任者へ。自治体と連携し、社会インフラをつくる

現在、野田は児童プラットフォーム事業部にて、2つの重要なプロダクトをリードしています。一つは、保護者がお子さまの発達特性や困りごとをオンラインで把握できる「LITALICO発達特性検査」です。 

――「LITALICO発達特性検査」とは?


2024年4月にリリースされたサービス。 保護者がオンラインで質問に答えるだけで、お子さまの特性や困りごとをデータとして可視化し、個別最適な情報を提供します。



子育てにおいて「うちの子、少し周りと違うかも?」「どう接したらいいんだろう?」という不安を抱える保護者は少なくありません。

しかし、専門機関の予約は数ヶ月待ちということもよくあります。LITALICO発達特性検査では、グラフで一目で特性が分かるだけでなく、「なぜ困っているのか」「どのようなサポートが有効か」という個別最適な情報まで提供します。
リリース後すでに3,000人以上が利用。海外在住の方など、支援リソースにアクセスしにくい環境にいる保護者からも感謝の声が届いています。

そしてもう一つが、現在まさに0→1で立ち上げている自治体向けSaaS「LITALICO健診ソフト」です。

――「LITALICO健診ソフト」とは?


上記の「発達特性検査」サービスの仕組みを応用した、現在立ち上げ中の自治体向けSaaS「LITALICO健診ソフト」。特にターゲットとしているのは「5歳児健診」の領域です。

【開発の背景:5歳児健診の壁】 日本では現在、5歳児健診の実施を推奨していますが、実際に実施できている自治体は約15%にとどまります(引用元:5歳児健診ポータル)。多くの自治体にとって、既存業務に加えて新たに5歳児健診を実施することは大きな負担であり、業務負荷を抑えつつ、精度の高いスクリーニングを行うことが求められています。また、3歳児健診から就学時(6歳)までの間は、行政によるチェックポイントが空白になりがちで、発達の遅れや困りごとが見過ごされてしまう「支援の空白期間」でもありました。
こういった背景から、「LITALICO健診ソフト」の立ち上げを決意しました。

「LITALICO健診ソフト」では、オンライン問診による的確な実態把握が行えます。紙の問診票ではなく、デジタル化された検査を用いることで、より精度の高いスクリーニングを実現。分析結果に基づき、保護者一人ひとりに合ったアドバイスを自動でフィードバックします。 紙の配布・回収・集計といった膨大なアナログ業務を削減し、保健師の方々が本来向き合うべき支援に時間を割けるようにします。



すでに山口県周南市と包括連携協定を締結し、実証事業を行うなど、社会実装に向けた動きは加速しています。「単にソフトを売るのではなく、自治体のインフラを共に創る仕事」と野田は語ります。



「5歳児健診は国の推奨もあり重要性が叫ばれていますが、人手不足などの理由で実施できている自治体はまだ約15%に留まります。私たちは、この社会課題を『業務効率化』と『質の高いサポート』の両面から解決しようとしています」

野田が担当するのは、単なるアプリ開発ではありません。自治体と連携協定を結び、実証実験を行い、現場の保健師や職員の方々の負担を減らしながら、お子さまの生きづらさを取りこぼさない仕組みを構築する。まさに「社会のインフラ」を作る仕事です。

プロダクトマネージャー(PdM)の役割について

では、野田が務めている「プロダクトマネージャー(PdM)」とは、具体的に何をする職種なのでしょうか。野田は「プロダクトマネジメント・トライアングル」の図を用いながら説明しました。


「一言で言えば、プロダクトの『Why(なぜ作るか)』と『What(何を作るか)』を決め、推進する仕事です。ユーザーの課題を発見し、エンジニアやデザイナーと協力して形にし、ビジネスとして成立させる。その全てのハブになるのがPdMです」
リサーチ能力や論理的思考力といった研究者としての強みは活かしつつも、泥臭い調整や顧客対応まで、その業務範囲は多岐に渡ります。しかし、その先には確かな手応えがあります。

「以前、エジプト在住の保護者の方から『現地の日本人学校にも支援リソースがなく困っていたが、この検査のおかげでお子さまの特性が理解できた』という声をいただきました。自分が作ったものが、国境を越えて誰かの助けになっている。ソフトウェアだからこそ実現できる価値を実感した瞬間でした」

一日のスケジュール

――定型業務よりもコミュニケーションと思考


プロダクトマネージャー(PdM)という仕事は、現場で作業療法士として支援をしていた頃のように「朝の準備、午前の指導コマ、午後の指導コマ、記録」といったカチッとした定型業務がほとんどないのが特徴です。日によって業務は多様で、その日の課題や進捗に応じて柔軟に動きます。

野田の一日のスケジュールをご紹介します。



  • 朝:集中作業・チーム議論 

午前中は比較的集中できる時間帯として確保し、仕様書(何を、なぜ開発するかの設計図)の作成や、プロトタイプ(試作品)の作成を行います。プロトタイプはAIツールなども活用しながら迅速に作り、チーム内で方向性や実現性について議論します。

  • 昼:コミュニケーション・レビュー 

午後の時間は関係者とのコミュニケーションが中心。社内チームでの定例会議で意思決定をしたり、デザイナーやエンジニアが作成したデザインや開発物に対して、方向性のズレがないかを確認し、レビューを行います。

  • 夕方:顧客対応・事業計画

プロダクトだけでなく事業全体を見ているため、顧客対応も重要な業務です。新規事業として連携する自治体との打ち合わせを行い、一緒に仕様を検討する時間も設けます。その後、他の事業部とのミーティングが入ることもあります。

  • 夜:中長期戦略の検討

終業までの残り時間は、中長期戦略の検討やロードマップ策定といった、じっくりと集中して考える必要がある作業に充てています。

現在野田はプライベートの育児と両立しながら働いています。出勤前(8時頃)にはお子さまの保育園の送りを行い、18時半には仕事を切り上げているといいます。
「そこそこ忙しい方の仕事だとは思いますが、ちゃんと家庭とのバランスも取って仕事はできています」

専門職からビジネスパーソンへ。成長のために必要だった「3つの視点転換」

アカデミアからビジネスへ。全く異なる環境に身を置いた野田は、どのように適応し、成果を出していったのでしょうか。彼が語った「成長の軌跡」は、これから社会に出る学生にとっても重要なキャリアの指針となります。ここでは、彼が経験した変化を「3つの視点」としてお伝えします。



1. ビジネスでは「スピード」を重視。リリース後も改善を重ねる


研究や医療の現場では、ミスは許されず、時間をかけてでも「100点の正解」を出すことが求められます。しかし、変化の激しいビジネスの現場では、その「完璧主義」が足かせになることがあります。
「ビジネスでは、デリバリー(届けること)が最優先です。時間をかけすぎて市場に出すのが遅れるよりも、まずは60点でもいいから形にして、ユーザーのフィードバックを受けて90点、100点へと磨き上げていく。この『プロセスの違い』に適応するのは、最初は苦労しましたが、今はそのスピード感こそが価値だと理解しています」

2. 「利益」とは「サステナビリティ(持続可能性)」である


福祉や医療のバックグラウンドを持つ人にとって、「利益を追求すること」に抵抗を感じることは珍しくありません。野田自身もかつてはそうでした。しかし、現在はその考えが大きく変わったといいます。
「ボランティアや公費だけに頼る活動は、制度変更や資金枯渇によって突然終わってしまうリスクがあります。ビジネスとしてしっかりと収益を生み出す仕組みを作ることは、サービスを持続させ、支援を届け続けるための『責任』なんです。ここに腹落ちした時、自分の仕事の意義がより深まりました」

3. バラバラのタスクが「点と線」でつながる瞬間


入社当初は、目の前のタスク(仕様書作成、会議、データ分析など)がどう全体につながるのか見えにくい時期もあったと野田は振り返ります。しかし、ある時、それらが「バチッ」とつながる感覚を得ました。
「これを『Connecting the dots(点と点をつなぐ)』と言ったりしますが、目の前の小さな仕事の意味を考え続け、積み重ねていくと、ある日突然、全体像が見える瞬間が来ます。特に新規事業を任され、PL(損益計算書)を見たり、長期戦略を描いたりする中で、全ての業務が有機的につながりました。これから入社する皆さんも、最初は分からないことだらけだと思いますが、焦らず目の前の『点』を打ち続けてほしいです」

参加した学生へのメッセージ

イベントの最後、野田は自身のキャリアを振り返りながら、これから社会に出る学生たちへエールを送りました。



「就活では、もちろん条件面も大切ですが、それ以上に『自分のやりたいこと(Will)』と『会社のニーズ』がマッチしているかを大切にしてほしいと思います。そこが重なっていれば、困難があっても楽しみながら乗り越えていけますし、自然と力がつくと思います。 LITALICOで事業を作ったり、プロダクトマネジメントをするのは本当に楽しいです。もし、社会課題解決とビジネスの両立に興味があるなら、ぜひ一度話を聞きに来てください」

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